イオンド”大学”の問題などにも言及していたという、「平和神軍観察会 逝き逝きて平和神軍」と題するサイトの運営者が、グロービート・ジャパン株式会社(旧:(株)花月食品)への名誉毀損罪で公訴されていた裁判の、最高裁判決が平成22年3月15日付けで下されている。

「本件上告を棄却する。」で、高裁判決の名誉毀損罪による罰金刑(30万円)が確定している。

最高裁判所の同判決文が、裁判所サイトのネット上で今回は早速開示されているのは、好ましい。(引用下記)

「原判決」とされている東京高等裁判所の判決文や、「所論」とされている東京地方裁判所の判決文なども、最高裁の判断理由に引用されている以上、同じく開示されていないと、判決の流れ全体が把握出来ず、些か片手落ちな感じは受けるのだが。

高裁判決や東京地裁判決も、当該裁判判決前後のものはネットで開示されているものもあるので、単なる事務処理上の問題でなく、ネット開示の可否について何か裁判所での判断基準があるのであろう。

非公開の裁判というのは日本には無い筈だろうから、裁判の傍聴なり、手続きを踏んでの判決文の入手なりは可能になっているのだろうが、折角インターネットという、物理的距離や経済的な面を殆ど問題としない便利な道具があるのであるし、とくに国民の権利が問題となっているような裁判の場合には、ネット上でもこれを開示し、国民の司法への信任に応えるよう取り計らうべきと、個人的には思うのだが。

刑法の名誉毀損罪;

(名誉毀損)

第230条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)

第230条の2 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

http://www.houko.com/00/01/M40/045.HTM#s2.34

短い条文と特例事項よりなる、至って簡潔なものだが、法律というのは単語ひとつ取っても自分のような素人には理解が難しいところがある。

解説はこれ辺りが纏まっているだろうか。

http://www.viswiki.com/ja/%E5%90%8D%E8%AA%89%E6%AF%80%E6%90%8D%E7%BD%AA

検察が問題としたのは、橋爪研吾被告人が「平和神軍観察会 逝き逝きて平和神軍」と題するホームページ内において、

「インチキFC花月粉砕!」

「貴方が『花月』で食事をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」

「おいおい,まともな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよくあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人のブローカーをやっていた右翼系カルト『平和神軍』が母体だということも,FC店を開くときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」

などと花月食品が虚偽の広告をしているがごとき内容を掲載し、これらを不特定多数の者に閲覧させ、もって公然と事実を適示して株式会社グロービート・ジャパンの名誉を毀損したものとしている。(http://homepage3.nifty.com/kansatsukai/news_2005.html

最高裁の判断は、「原判決は、被告人は、公共の利害に関する事項について、主として公益を図る目的で本件表示行為を行ったものではあるが、」としているが、真実性および真実相当性については、「他の場合と同様に、行為者が適示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」とし、被告人が誤信したことについては、「相当の理由があるとはいえない」としている。

刑法230条は、表現の手段については特に言及していないし、インターネットの個人利用者に限って真実相当性の基準を緩めるという解釈の根拠は無いだろうし、法に照らせば、このような判決しかなかったというところだろうか。

刑法230条というのは、真実の有無に関わらず、他人の社会的評価を貶めるような行為は、これを罰する、ということが基本であり、”が、しかし”公共性、公益性、真実性があることが証明出来れば、これを罰しない、という(特例)が付いている。

刑法というのは明治40年に公布されたものだといい、歴史を感じさせるものだが、大日本帝国憲法の時代には、第230条2の特例事項というものは無かったのだという。

戦後、日本国憲法下での表現の自由(憲法第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。)との調整を図る為、昭和22年の刑法改正で、第230条2の特例事項が付け加えられたものという。(http://www.shugiin.go.jp/itdb_housei.nsf/html/houritsu/00119471026124.htm

結果は同じことになるのかも知れないが、現行憲法下であれば、人の名誉権に関わる刑法条文としては、表現の自由の保障が基本で、公共性、公益性、真実(相当)性に欠ける場合、これを罰す、という表現がより相応しいところだろうか。

インターネットに触れる機会の無かった高齢者は兎も角、実社会の第一線で働いている方や、学生の方などはネット情報の活用は今や生活の一部だろうし、これからは事実上全ての人がインターネットを活用する社会になってゆくのだろう。

ネットも社会の一部であるから、そこでの言動について責任が伴うことは同じとしても、所謂”行き過ぎた表現”に刑事罰が課されることの、威圧効果は大きいだろうか。

社会性のある問題をネットで取り上げた場合、相手の名誉毀損との抵触は避けられないところがあると思われるが、公共性、公益性、真実性や真実相当性を立証出来れば罪には問わない、ということで表現の自由は保障されている、とはするものの、真実相当性に欠ける、所謂”行き過ぎた表現”が少しでも生じれば、刑事告訴され「前科者」になる可能性がある、となれば、一般には社会的問題を個人で取り上げることのリスクは、大き過ぎようか。

社会正義の意識というのも、”長いモノに巻かれて生きて来、枯れてしまったおやぢ”より、やはり若い世代は強いのであろうし、かと言って報道によって営業収益を得ている新聞社などの報道機関と同じ取材など、経済的にも無理であろう。

「ならば、書くな」となろうが、人間は社会的動物と言うから、沈黙を強いることは難しい。

社会的な問題を取り上げれば、相手からの挑発と言う事もあることだろうし、正義感が強いほど、表現がエスカレートし勝ちと言う事もあるだろうし、法的なリスクを避ける為には、個人レベルでなくグループでの表現行為や、或いは捕捉特定されないような場所から、匿名で投稿するようなことに結局なるだろうか。

ネットと言うものが社会の中で大きなウェイトを占めるようになってゆく事を考えると、日本の社会の発達・成熟と言うのは、やはり遅れようか。

警察庁によれば平成21年度のインターネット等を利用した「サイバー犯罪」の検挙件数は、6,690件であるという。(http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h21/pdf54.pdf

詐欺・悪徳商法などが多いようで、名誉毀損については「その他ー上記以外 629件」に括られていて個別検挙件数は明らかでないが、名誉毀損による検挙件数が、多くは無いことは解る。

名誉毀損・誹謗中傷等に関する相談件数は、11,557件とあるから、相談は相当な数にのぼるが、採り上げられる例は少ないといったところになるだろうか。

平和神軍観察会事件は平成16年の起訴だというから、検察もこの件はよく公訴まで上げたものといえようか。

「検挙に勝る防犯無し」という言葉があるが、検挙しても公判で次々無罪となる様では意味がないのであり、刑事の場合の裁判での有罪率は極めて高いのだと言う(ほぼ100%とか99%とか)。 検察もその威信に賭けて絶対の自信を持って起訴するのであろうし、又そうでなくては、国民としても困るだろう。

この裁判では、事件の事実審理が行われた第一審で無罪判決が下されていたが、極めて稀有なことだろうし、この事件の性格を物語っているといえようか。

新聞等マスコミ報道では、インターネット上での表現での名誉毀損という事にスポットライトが当たり過ぎ、被告が「平和神軍観察会 逝き逝きて平和神軍」というサイトで主張したかったであろう、平和神軍やイオンドなどの社会問題についての関心が、却って薄れてしまった感じがしないでもない。

公共性、公益性や真実(相当)性に欠ける、企図的な名誉毀損や誹謗中傷の表示行為が社会的に許されないのは当然であるが、真実相当性が欠けるとされた今回の裁判の例では、刑事罰の萎縮効果を考えると、些かネット社会の実情や表現の自由とのバランスに欠けるきらいがあるように思う。

最高裁判所というのは、その名の通り日本における司法の最高府なのだろうが、法は法であるとはしても、バランスをとれる知恵というのはなかなか難しいことだろうか。

◇◇◇

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人紀藤正樹ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は

単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらな

い。

なお,所論にかんがみ,インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損

罪の成否について,職権で判断する。

1 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,次のとおりである。

被告人は,フランチャイズによる飲食店「ラーメン甲」の加盟店等の募集及び経

営指導等を業とする乙株式会社(平成14年7月1日に「株式会社甲食品」から商

号変更)の名誉を毀損しようと企て,平成14年10月18日ころから同年11月

12日ころまでの間,東京都大田区内の被告人方において,パーソナルコンピュー

タを使用し,インターネットを介して,プロバイダーから提供されたサーバーのデ

ィスクスペースを用いて開設した「丙観察会逝き逝きて丙」と題するホームペー

ジ内のトップページにおいて,「インチキFC甲粉砕!」,「貴方が『甲』で食事

をすると,飲食代の4~5%がカルト集団の収入になります。」などと,同社がカ

ルト集団である旨の虚偽の内容を記載した文章を掲載し,また,同ホームページの

同社の会社説明会の広告を引用したページにおいて,その下段に「おいおい,まと

もな企業のふりしてんじゃねえよ。この手の就職情報誌には,給料のサバ読みはよ

くあることですが,ここまで実態とかけ離れているのも珍しい。教祖が宗教法人の

ブローカーをやっていた右翼系カルト『丙』が母体だということも,FC店を開く

  • 2 -

ときに,自宅を無理矢理担保に入れられるなんてことも,この広告には全く書かれ

ず,『店が持てる,店長になれる』と調子のいいことばかり。」と,同社が虚偽の

広告をしているがごとき内容を記載した文章等を掲載し続け,これらを不特定多数

の者の閲覧可能な状態に置き,もって,公然と事実を摘示して乙株式会社の名誉を

毀損した(以下,被告人の上記行為を「本件表現行為」という。)。

原判決は,被告人は,公共の利害に関する事実について,主として公益を図る目

的で本件表現行為を行ったものではあるが,摘示した事実の重要部分である,乙株

式会社と丙とが一体性を有すること,そして,加盟店から乙株式会社へ,同社から

丙へと資金が流れていることについては,真実であることの証明がなく,被告人が

真実と信じたことについて相当の理由も認められないとして,被告人を有罪とした

ものである。

2 所論は,被告人は,一市民として,インターネットの個人利用者に対して要

求される水準を満たす調査を行った上で,本件表現行為を行っており,インターネ

ットの発達に伴って表現行為を取り巻く環境が変化していることを考慮すれば,被

告人が摘示した事実を真実と信じたことについては相当の理由があると解すべきで

あって,被告人には名誉毀損罪は成立しないと主張する。

しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといっ

て,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないの

であって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手

段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に

載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これ

による名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉

  • 3 -

の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図ら

れる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者

による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真

実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由がある

と認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であっ

て,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和

41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975

頁参照)。これを本件についてみると,原判決の認定によれば,被告人は,商業登

記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった

者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して

本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成

されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資

料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事

実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのであ

る。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信し

たことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえないか

ら,これと同旨の原判断は正当である。

よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,

主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官

金築誠志裁判官横田尤孝)

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100317094900.pdf

◇◇◇

最初に開示されていた判決文には固有名詞があったと思ったが、その後「甲」、「乙」、「丙」などとされたようである。

当裁判の経緯を知っている者には夫々何なのか察しが付くだろうが、初めて接するような人には、これでは何が何やら解らないのではなかろうか。甲、乙、丙と言うのでは検索も出来まい。

まさか法廷に於いても甲、乙、丙等と呼称しているわけでもあるまいから、ネット開示上で固有名詞を伏せるのは何か理由があってのことなのだろうが、素人おやぢには、その必要性がよく解らないところである。

「甲」「乙」「丙」といった単なる固有名詞の変更であっても、開示している判決文が原判決文と異なる部分については、やはり目に付くところに、その説明が要ることと思うのだが。

被告弁護人の紀藤弁護士のところには、判決文をその儘で、限定された保護情報箇所のみを黒塗りにして上がっていたのは、好ましい。

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    • 1.
    • 1970年01月01日 09:00
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    • 2.
    • 1970年01月01日 09:00
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