今年(2007年)の2月だったそうだが、田島一成衆議院議員(http://www.tajimaissei.com/profile/index.html)が国会で、「ディプロマミルー学位商法の問題」を伊吹文科相(当時)に質しておられる。

動画:http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=33773&media_type=wn&lang=j&spkid=6909&time=07:37:26.8

同上質疑応答録:http://www.tajimaissei.com/report/logs/070228-4.html

政局に忙しいのであろうか、大臣の学位商法問題の現状認識はいまひとつな印象であるが、文科省としては怪しげな”外国の学位”と称するモノが日本の高等教育機関に浸蝕して来ることへの問題意識は共有しているようである。

この田島議員の質疑での問題提起が文科省による全国国公私立大学の「実態調査」の実施に繋がっているのだろう。

学位商法、いわゆる偽学位の話題は新聞、TV等でも最近よく取り上げられて来ているようである。ネット上でも現職の大学教授にこういった偽の学位を利用している者を容易に見つけることも出来るが、日本には756の国公私立大学があるといい(他に短大434、高専64校)、大学の教授・准教授だけで十万六千人という(http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/07073002/006.htm)、なかに偽学位を利用している者が相当数存在するものだろうか?

世界の国には地面を掘れば、お金が沸いてくるような国家もあるわけだが、これといった天然資源は何も有しない日本の場合は、高度な教育水準とそれに裏打ちされた勤勉さの「人的資源」だけが繁栄の源資であろうし、教育の質の確保の重要性は今更言うまでもないであろうが、そうでなくとも色々と課題の多い教育(http://www.pisa.oecd.org/dataoecd/15/13/39725224.pdf)の現場で、大学などの高等教育機関からして学位商法の偽学位に引き摺り下ろされるようでは堪るまい。

マスコミも大いに取り上げるべきだが、新聞・TVと言うのは如何せん一過性のものである。インターネットは情報の宝庫であるが、玉石混交であり、玉とごろた石とを選り分ける術が要る。日本と外国の高等教育は制度の違いもありー学位商法というのはそういった”制度の隙間”を突いているわけであるがー理解が難しいところがある、学位商法の問題というものを平易に解説した書籍の出現も望まれるところだろう。

イオンドなどの日本の学位商法を眺めていて驚くのは、学位商法の業者が”訴訟”を持ち出すことや”相手の勤務先への執拗な抗議”などで公然と相手を恫喝していることである。

偽学位を使用した者は軽犯罪等を問われる可能性があるようだが、偽学位を発行する業者のほうはどうなのか?

紙切れが百万円で売れるのだ。法が有っても新手が次々と出てくる世界である。たとえ学位商法の業者が外国で処罰を受けても、日本では何ら犯罪に問われないようでは予防など困難であろう。

現行法の改正や新法など、必要な法制面の整備というのも必要があるのではないか。

大学のこの問題への対応だが、

違いの際立った二つの事例が出ているようである。

大分大学であるが、

真正な学位と紛らわしい呼称等の取得者への対応について


http://www.oita-u.ac.jp/top/shinsei.html

雇用契約条件の資格に虚偽があったのであるから、考え方としては即時解雇であろうが、人事実務として辞職扱いというのは納得のいくところであろうし、大学が採用に当っての反省と資格審査責任者への注意処分までも行なっている。

そして、速やかにこれを公表している。

採用時に資格審査の慎重さを欠いていたという悔いは残るだろうが、その後の対応は実に明解である。鮮やかな手際であり、なにやら爽やかな印象すら受ける。

さて、

もうひとつの九州産業大学であるが、

九州産業大:商学部長が非公認学位 米大学博士号を240万円払い取得


「文科省の指導があれば厳粛に対応」ということであるから、指導が無ければ勿論何もしないことになるか。

自らは何も動かないのであり、高等教育機関としての大学の自主性や自律、自治、大学の社会性といったことは毛頭考えていないように見える。或は、”そんなことより大切”と考えるものがあると言う事だろうか。

大学全入時代を迎えて、大学も選択と淘汰の時代を迎えているとも聞くが、色々な大学が存在する。

文部科学省は、当たり前のようなことであっても、学位商法の浸蝕から日本の高等教育の質を守る為の指針というのは、明確に示しておくべきなのだろう。

九州産業大学(福岡市)の商学部長で大学院商学研究科長も務める教授が、公的機関の認定を受けていない米国の大学の博士号を、大学院の学生募集要項などに掲載していたことが30日、分った。九産大は文部科学省に大学院設置認可を求めた際、この博士号をもとに、教授が大学院での指導能力を有すると文部科学省に申請した。文科省の審議会も指導資格者と認定していた。

九産大などによると、教授が学位を取得したのは、約30年前に米ミズーリ州で設立された「クレイトン大学」の日本校。全米高等教育機関基準認定協議会の認定リストに名前がない。教授は、農業系の研究機関に在籍中の92年に、論文1本を提出し、240万円を支払って学位を取得したという。その後、第一経済大(現・福岡経済大)助教授を経て96年に九産大に採用された。同大の05年度学生募集要項などで自らの学位について、博士号を表す「Ph.D.(経営学)」などと記載し、博士後期課程も指導している。教授は「公式な学位と信じてきたので残念」と話している。

 教授の採用は大学院設置と同時で、九産大人事課は「当時は相当の教員を集める必要があった。学歴が採用に有利に働いたかどうかは不明」という。一定の費用負担や形式的な論文審査で学位取得が可能な「学位商法」を巡っては、文科省が実態調査・分析を進めている。九産大は「文科省の指導があれば厳粛に対応したい」と話している。【石田宗久】

2007年10月31日

毎日jp



平成19年7月に文部科学省から「真正な学位と紛らわしい呼称等についての大学における状況に係る実態調査について」の照会があり,本学の状況を調査したところ,下記のとおりの結果となりました。本学において,今回のような事態が起こったことは,非常に残念であり,誠に申し訳なく思っています。真正な学位を授与する機関である大分大学としては,今回のような真正な学位を発行する正規の大学等として認められていない機関の学位については,これを学位として認めることはできません。しかしながら,選考の段階でこのことが判明しなかった点で,本学の教員採用時の調査不足は否めず,真摯に受け止める必要があり,大いに反省すべきことと思っています。今後は,二度とこのようなことが起こらないように,教員採用時の審査を一層厳格化していきたいと思います。

記   

1.事実の内容

真正な学位を発行する正規の大学等として認められていない機関の学位(修士)により採用した工学部准教授が1名いることが判明した。

2.本学の対応

真正な学位を授与する機関である大分大学としては,真正な学位を発行する正規の大学等として認められていない機関の学位については,学位として認めないという立場から,公募時に応募資格として記載した「修士号以上の学位を有する方」という採用条件を満たしていないため、当該者との雇用契約を取消すこととし,本人からの辞職願を受理しての合意解約とした。なお,本学の資格審査時の責任者である工学部長にも厳重注意を行うこととした。